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February 10, 2009

制約があった方が発想が広がる

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あえて思考に制約を設ける
 アイデアを出すのに有効とされるブレーンストーミングだが、何の条件もなしに自由に意見を述べてくださいと言われても、思うようにアイデアが浮かばなかったりする。自然体で、常識にとらわれず考えてみるよう部下にはっぱをかける上司は多いものの、ある元マッキンゼーのディレクターに言わせれば、「議論のルールや段取りがはっきりしない抽象的なブレーンストーミングが得意な人など、まずいない」という。では、議論の膠着状態を打破するためにはどうすればいいのか?そのディレクターは、「質問の内容を絞り込むべきだ」とアドバイスしている。
 「我々の経験から申し上げれば、一定のルールに基づいて思考範囲をある程度限定すると、人はあらゆる可能性を賢く模索し、名案を次々に考え出し、素晴らしい発想に至る。

 しかるべき制約を設けることは、よい質問を投げかけることでもある。つまり、人々の思考を制限している既存の箱とは異なる、役に立つ箱を新たにつくり出すような質問を発することにほかならない。」
 新製品開発のアイデア出しを行う会議を想定してみよう。一般的なファシリテーターならば、「幅広くアイデアを出してください。間違ったアイデアなどありません。」と言うかもしれない。だが、何の取っ掛かりもない状態で議論を始めても考えに詰まって意見が出てこないか、あるいは皆がめいめい好き勝手に発言して収集がつかなくなるかのどちらかである。

 ファシリテーターに必要なのは適切な質問を投げかけて、メンバーから有益な情報を引き出すことである。例えば、顧客セグメンテーションの妥当性を検証するために「最近の顧客のなかで、当社の製品が最も適していない顧客はだれか。」と投げかけたり、潜在的な競合他社を探り当てるために「我々とは全く違う理由で、我々と同じ問題(ここでいう問題とは、「我々が満たそうとしている顧客ニーズ」という意味)に対処しているのはだれか。また、どのように取り組んだのか。」と問うてみたり、新規のターゲット顧客層を設定するために「まったく想定していなかった方法で製品を使用しているのは、どのような人か。」と尋ねてみたりする。逆説的だが、メンバーの思考を質問によってあえて制限することで、メンバーが質の高い情報を提供するようになり、議論が活性化するのである。(※1)

 私もクライアントとの会議を準備するあたって、上司から「論点を明確にせよ」とよく言われる。つまり、この会議では何について議論をするのかをはっきりさせておけ、ということだ。実際、論点があやふやなまま会議に臨み、場の流れの中で「この点はどう思いますか?」などと思いつきベースで質問を投げかける方式はうまくいった試しがない。「今日の会議でクライアントと議論するポイントはこことここ」とある程度目星をつけておき、クライアントが議論しやすいように必要な情報を会議資料として準備するのが適切なやり方である。論点をうまく切り出すことができるか否かが、コンサルタントの成否を分けると言っても過言ではない。

人材に制約があるケース
 思考に制約を設けることで良質のアイデアを引き出す方法を紹介したが、経営資源も潤沢にあるよりは何かと制約があった方が発想が広がるように思える。例えば、人材に制約があるケースもそうだ。

 企業の経営者ではないが、楽天の野村監督(最近ブログで取り上げすぎだなぁ…)は限られた人材の中で強者を倒す戦略、いわゆる「弱者の戦略」に長けている人物の一人だろう。残念ながら楽天の監督になってからは、まだ優勝どころかAクラスにも入ることができていないのだが、ヤクルト時代には9年間で実にリーグ優勝4回、そのうち3回は日本一に輝くという実績を残している。

 当時のヤクルトには、巨人のように才能に恵まれた選手がほとんどいなかった。ピッチャーの球に本能的に反応して打ち返すような高度なバッティング技術を持つ選手も少なければ、抜群の球威で打者をねじ伏せられるピッチャーも少なかった。そこで野村監督が考え出したのは、自身が南海時代に実践していた、「バッターはピッチャーが投げる球を事前に高い精度で予測し、ピッチャーはバッターの弱点となるコースを徹底的に付く」という戦略をチーム全体に浸透させることであった。野村監督はスコアラーのデータ改革に着手し、相手チームのピッチャーの配球と、バッターの得意とするコース・苦手とするコースを洗いざらい調べさせた。この調査で蓄積された膨大な情報を基に、選手は試合に臨んだのである。いわゆるID野球がこれである。

 また、「選手に優位感を持たせる」のも野村監督流の「弱者の戦略」の一つである。弱いチームでは、選手も自分たちは弱いと思っており、巨人のような豊富な資金で有望選手を次々と獲得しているチームと対戦すると、劣等感で勝負をする前にびびってしまう。そこで、「自分たちは巨人よりも進んだ野球をしているのだ」と選手に思い込ませるために、通常のチームであればまずやらないようなトリックプレーをキャンプ中から何度も練習し、試合で実践させたのだという。(※2)

 企業経営に目を向けると、中小企業は常に人材難に見舞われている。知名度が低すぎて優秀な人材が集まってこないというのは、中小企業の経営者に共通の悩みだろう。だが、中には工夫を凝らして人材を活用する方法を見出している企業もあり、大いに学ぶべき点があるように思える。

 株式会社武蔵野の代表取締役である小山昇氏は、ユニークな経営手法を用いることで有名だ。武蔵野は従業員数が360名程度の中小企業であり、他の中小企業と同じく人材には悩みを抱えている。しかし、そうした制約を乗り越える方法をいくつも実践している。その一つに、「部下の人数を5人程度に絞る」というのがある。
 「普通の会社の部課長は、5人の部下よりは25人の部下を采配したいと思うが、我が社では逆です。

 こうした工夫で我が社は自然に組織が細分化され、小さくなりました。当然です。部課長にしてみれば部下は少ないほうが楽ですから。組織が小さくなったぶん、小回りが利くスピード経営も実現した。さらによかったのは、そこそこのマネジメントスキルしかない部課長でも、きちんと組織を掌握できることです。25人の部下を采配するのは並大抵の能力ではできない。しかし5人なら、平均程度のスキルでもなんとかなる。これは、いわゆる『エリート』とは縁の薄い中小企業にとっては重要です。」(※3)
 あえて組織を細分化することで、上司のマネジメント能力の制約を取り払ったのである。

資金に制約があるケース
 2008年度はかなりの苦戦を強いられているトヨタ自動車だが、トヨタを「世界のトヨタ」まで成長させたのは何といってもカンバンなどに代表されるトヨタ生産方式である。大野耐一氏が発案したカンバン方式は、当時のトヨタの「資金の少なさ」という制約がもたらした産物であるとも言える。

 1950年代のトヨタは、アメリカのGMやフォードとは比べ物にならないほど小さな企業であった。GMやフォードは、大量生産によって1台あたりの生産コストを下げることに成功していた。また、豊富な資金力が在庫リスクを十分に吸収してくれていた。ところが、トヨタの生産性はGMやフォードよりもはるかに低く、相対的に高コスト体質であった上、在庫を抱えられるほど資金が充実していなかった。このままではいつまで経ってもGMやフォードと勝負できない。「いかにして在庫を減らし、かつ1台あたりの利益を上げるか」−これがトヨタの直面した課題であった。この制約に大野耐一氏が挑み、カンバン方式が編み出されたのである。(当時取引のあった名古屋の銀行から厳しい返済要求を突きつけられており、返済資金を早く作るためにカンバン方式が編み出されたという話を聞いたことがあるが、真偽のほどは定かではない。)

 ホンダがその昔、北米にスーパーカブを投入し、アメリカの大型バイクメーカー以上の成功を収めた裏にも資金のなさが影響しているとの見方がある。ホンダが北米のオートバイ市場に進出した当初は、大型バイクで勝負するつもりでいた。しかし、ホンダは日本の細い道を走る小型バイクの技術には優れていたが、アメリカで主に需要のある、高速の長距離連続走行用のバイクを製造する技術には詳しくなかった。そのためさっぱり大型バイクは売れず、すぐに資金が底をつきかけた。

 その頃、北米のホンダ社員が50ccのスーパーカブを乗り回していたところ、意外にもその光景が一般の人々や小売業者の目を引くようになる。目をつけたのは大型バイクを扱うオートバイ販売業者ではなく、スポーツ用品店だった。資金がなくなりかけていたホンダは、スポーツ用品店を通じたスーパーカブの販売へと方針転換する。彼らが対象としたのは、革ジャンを着て派手に長距離を走り回る消費者ではない。どちらかというと、楽しむためにバイクに乗るような消費者であった。こうしてホンダは、オフロード・バイクという新しい市場を開拓し、北米のオートバイ市場を席巻したのである。もしこの時、ホンダが潤沢に資金を持っていたならば、成功するまで大型バイクの販売に資金をつぎ込み続けたであろう。そしておそらく、それらの資金は回収不能に終わった可能性が高い。(※4)

 トヨタとホンダの例は、資金上の制約が確実に利益の出る事業モデルへの転換をもたらしたケースであると言える。資金はあればあるほどよいと思われがちだが、決してそんなことはないようだ。

 ちなみに、私が最近挑んでいる制約は、「いかに営業工数をかけずに研修サービスを受注につなげるか?」である。当社も典型的な中小企業で、営業担当者もそれほど多くない。競合他社のように積極的な営業攻勢に打って出るのが難しい。そのため、可能な限り営業リソースを使わずにリード顧客を作り、商談を創出し、受注率を高めるかが求められている。これはかなりの難題だが、もしすごい方法が見つかれば、きっと競合が真似できない利益率をたたき出すことができる気がする。

《参考》
(※1)ケビン・P・コイン他「マッキンゼー流ブレーンストーミング術」(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2008年8月号)」文中に登場する質問例も本論文から引用した。
(※2)野村克也著『野村ノート』(小学館、2005年)
(※3)「第64回『面談してください』と社員に言わせる仕組み」(SAFETY JAPAN、2007年7月24日)
(※4)クレイトン・クリステンセン、マイケル・レイナー著『イノベーションの解』(翔泳社、2003年)

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