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November 22, 2008

功ある者には禄を、徳ある者には地位を−『人事と出世の方程式』

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永井 隆
日本経済新聞出版社
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ダイバーシティマネジメントの重要性
わが社流の人事を
サラリーマンにとって考える切っ掛けを与える一冊
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 「出世は、ゴマスリと数字と信頼感で決まる」という刺激的な言葉から始まる本書は、日本の人事制度の特徴を多くの企業事例をもとに描写した本である。90年代に欧米から成果主義が紹介され、大手企業の中で富士通が先陣を切って成果主義を導入した。その後多くの企業に成果主義が広まったものの、さまざまな弊害が指摘されるにつれて成果主義は軌道修正を強いられ、現在に至っている。

 現在の日本の人事制度の特徴を、著者は次のように述べている。
 「日本の企業社会に、成果主義が導入されてから、もう10年以上が経過する。しかし、一つだけ従前と、あまり変わっていない人事システムがある。それは昇進昇格に関する人事システムだ。

 …『成果を上げること(結果を出すこと)』は、成果主義運用により昇進昇格をする要件に入った。が、成果がすべてでもないし、絶対でもない。長期雇用を前提にしながら、”人間”的な側面から人を登用している。」
 この「人間的な側面」の中に、冒頭に出てきた「ゴマスリ」と「信頼感」が含まれている。まあ、ゴマスリはちょっとオーバーかもしれないが、要するに「周囲の人間から支持され、彼らと協調して仕事を進められるか」という、過去の成果とは別の軸で昇進昇格が判断されているというわけだ。

西郷隆盛の遺訓に学ぶ
 過去の成果と人間的な側面を分けて評価するという「二重の評価」の考え方は、実は企業が誕生するよりも前に遡ることができる。幕末の藩士・西郷隆盛の生前の言葉や教訓をまとめた『西郷南洲翁遺訓集』の第一条に、次のような文章がある。
 「廟堂(びょうどう)に立ちて大政を爲すは天道を行ふものなれば、些(ち)とも私(わたくし)を挾みては濟まぬもの也。いかにも心を公平に操(と)り、正道を蹈(ふ)み、廣く賢人を選擧し、能(よ)く其職に任(た)ふる人を擧げて政柄を執らしむるは、即ち天意也。夫れゆゑ眞に賢人と認る以上は、直に我が職を讓る程ならでは叶はぬものぞ。故に何程國家に勳勞(くんろう)有る共、其職に任へぬ人を官職を以て賞するは善からぬことの第一也。官は其人を選びて之を授け、功有る者には俸祿を以て賞し、之を愛し置くものぞと申さるゝに付、然らば尚書(書經)仲■(ちゆうき)之誥(かう)に「徳懋(さか)んなるは官を懋んにし、功懋んなるは賞を懋んにする」と之れ有り、徳と官と相配し、功と賞と相對するは此の義にて候ひしやと請問(せいもん)せしに、翁欣然として、其通りぞと申されき。」(※1)
(■は「兀のにょうの形+虫」、第4水準2-87-29)
 現代語訳は以下。
 「政府にあって国のまつりことをするということは、天地自然の道を行なうことであるから、たとえわずかであっても私心をさしはさんではならない。

 だからどんなことがあっても心を公平に堅く持ち、正しい道を踏み、広く賢明な人を選んで、その職務に忠実にたえることのできる人に政権をとらせることこそ天意すなわち神の心にかなうものである。だからほんとうに賢明で適任だと認める人がいたら、すぐにでも自分の職をゆずるくらいでなくてはいけない。
従ってどんなに国に功績があっても、その職務に不適任な人を官職を与えてほめるのはよくないことの第一である。

 官職というものはその人をよく選んで、授けるべきで、功績のある人には俸給を与えて賞し、これを愛しおくのがよい、と翁が申されるので、それでは尚書(中国の最も古い経典、書経)仲■(き)(殷の湯王の賢相)の誥(こう)(官吏を任命する辞令書)の中に「徳の高いものには官位を上げ、功績の多いものには褒賞を厚くする」というのがありますが、徳と官職とを適切に配合し、功績と褒賞とがうまく対応するというのはこの意味でしょうかとたずねたところ、翁はたいへんよろこばれて、まったくその通りだと答えられた。」(※2)
 本書では「功あるものには禄を、徳ある者には地位を」という言葉で西郷の考えが紹介されているが、かいつまんで言えば、「頑張って成果があった人には高い給料を与えて報いる。だが、過去に成果があったからという理由で官職を与えてはならない。得のある人こそ、官職をもって報いるべきだ」ということである。

パナソニックの事例
 「功ある者には禄を、徳ある者には地位を」方式の人事制度とは、具体的にはどのようなものか?ここでは同書からパナソニックの事例を引用したいと思う。パナソニックでは、人事評価に完全ポイント(点数)制を導入している。まず、賞与はどのように決められているのかというと、
 「管理職は99年に年俸制に移行していたが、04年4月からは一般社員に対しても年齢に応じて昇給する年功型賃金を廃止し、成果反映型の賃金制度に切り替えられた。

 営業成績や開発成果など、社員は期初に目標設定する。その達成度と難易度を掛け合わせたポイント(点数)を期末に計算して、評価が決まる仕組みだ。これを個人の成果(貢献度)として賞与に反映させた。」
 一方、昇進昇格の方は「スキル評価制度」として06年4月から開始された。
 「まず社員の職種を技術、モノづくり、管理、営業の四つに分類。各分野で求められるスキル(技能)を合計で450に細分化した。

 評価項目は.謄ニカルスキル▲謄ニカルスキルを遂行するためのプロセススキルヒューマンスキルの3つ。項目別に8段階評価でポイントをつけて、合計点数を11段階に分類する。…獲得したポイントは、昇進昇格の基準となるだけではなく、本人が希望して異動する『チャレンジ型異動』にも利用されていく。」
 端的にまとめると、賞与は「業績に対する貢献度」で決定し、昇進昇格は「スキル」で決定する仕組みとなっている。

報酬には「清算型」と「投資型」がある
 人事評価をめぐっては、「何とか主義」という言葉がいくつも存在する。成果主義はもちろんだが、能力主義とか業績主義、実力主義などという言葉もある。ある人が「これまでの○○主義はダメだ。これからは△△主義でいこう」と言えば、別の人が「いやいや、△△主義には問題がある。□□主義こそ適切だ。」と言う、といった議論が長年繰り返されてきた。

 だが、どの主義が一番いいという議論の前に、人事評価は何のためにやるのかという目的をもう一度整理しておく必要がある。人事評価は報酬を決めるために行われるものだ。代表的な報酬には、賞与、昇給、昇進昇格の3つがある。この3つの報酬はそれぞれ性質が異なるため、性質に応じた評価方法が必要になってくる。

 まず賞与とは、会社が出した利益を社員に分配する、いわば「清算型」の報酬である。利益に対する各社員の貢献度に応じて、分配比率を決定する。賞与の決定に必要なのは、この「利益に対する貢献度」を決める評価である。当然、貢献度が高ければ、賞与の額は大きくなる。極端なことを言ってしまえば、たとえいい成績が残せたのは運が良かったからであろうと、来年同じぐらい高い成果を上げられるかどうか不明であろうと、とにかく高い成果が上がっていればその人には多くの賞与を分配する。いわゆる成果主義(厳密には結果主義と言うべきなのだろうが、一般には結果の大小を評価するのが成果主義と理解されているため、便宜的に成果主義としておく)が一番なじみやすいのはこの評価である。

 次に、昇進昇格とは新しいポストで成果が出せる人を決めることである。決して、功労者にご褒美としてポストを与える作業ではない。「名選手、名監督にあらず」という言葉が示すように、下のポストで輝かしい成績を残した人が上のポストで結果を残せるとは限らない。昇進昇格を決めるのに必要なのは、「新しいポストで必要となるスキルや資質を見極め、そのスキルや資質を持っていると思われる人を決定する」作業だ。よって、過去の実績は参考材料にはなるが、決定的な要素にはならない。それほど過去の実績が芳しくなくても、上位のポストに上がる可能性だってありうる。不確定な要素が多い中で、「この人なら上のポストでもやっていける」と未来の可能性に賭けているのである。この点で、昇進昇格は「投資型」の報酬といえる。ここを取り違えて、昇進昇格をすべて成果主義(結果主義)で決定してしまうという過ちが少なくない。

 最後に昇給であるが、昇給にはベースアップによるものと、号棒のアップによるものの2種類がある。ベースアップは、「去年の会社の業績が良かったので、社員の今年の給料を全体的に上げる」というものであり、賞与に近い性質がある。つまり、過去の利益の分配となる「清算型」だ。

 一方、号棒は、「この人は来年以降もより高い成果を上げ続けてくれる」と思う社員なら上がる。賞与との違いは、賞与はたまたまいい成果が出た場合でも高い金額がもらえるのに対し、号棒はたまたまいい成果が出ただけでは上がらない。「来年も継続的により高い成果を上げてくれる可能性がありそうだから、少し高いお金を払ってでも雇い続けたい」という会社の意志の表れが号棒のアップなのである。よって、号棒のアップは「投資型」といえる。号棒アップを決めるためには、「その人が運や外的要因によらず、継続的に高い成果を上げられるかどうかを見極める」ことが必要になる。最近多くの企業で導入されている「コンピテンシー評価」は、こうした評価を行うための手法である。本来の成果主義にはコンピテンシー評価が含まれており、決して結果の大小だけで評価を決定したりはしない。(※3)

 以上、長々と書いてしまったが、こういった報酬の性質の違いを考えずに、やれ○○主義だの、△△主義だのと主張するものだから、議論が錯綜してしまっているケースが結構多いと思う。報酬の性質と評価の目的を踏まえたた上で、適切な評価方法がどういうものなのかを議論したいものだ。

(※1)「西郷隆盛 遺訓」(青空文庫ホームページ)
(※2)http://www.kamou.co.jp/keiten/saigoikun.html
(※3)「清算型」「投資型」という言葉は、ワトソンワイアットのコンサルタント・川上真史がよく使われる言葉である。川上真史さん:成果主義とストレスと人事コンサルタント『日本の人事部』

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