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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
September 24, 2008

意外と行われていないプレゼン前の3つの準備

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 「備えあれば憂いなし」という言葉があるように、何事も準備が大切だ。ところが、プレゼンテーションに関してはこの言葉の重要性があまり認識されていないように思える。もちろん、「パワーポイントを駆使して資料を作る」(とりあえず、パワーポイントの功罪という論点はここでは省略する)という意味では準備をしているのかもしれないが、本当に重要な準備は資料作りよりもさらに前に行うべきである。

プレゼンの時間は何分か?
 当たり前すぎて何だと思われるかもしれないが、これはきわめて重要である。さすがに自分の手持ち時間が何分か全く知らずにプレゼンを敢行するという愚かな過ちはないと思うが、プレゼンの時間によってしゃべることができる話の長さ、見せることができるスライド数が規定されることも意識する必要がある。

 パワーポイントでプレゼンを実施する場合、1スライドのプレゼンにおおよそ2〜3分かかる。これは私の経験則や先輩方の教えでもある。つまり、持ち時間が20分であれば、7〜10枚程度のスライドでプレゼンするのが最も適切だ。もっと言えば、スライドごとにキーメッセージ(聞き手にとって重要な意味を持つプレゼンターの主張)を1つずつ埋め込むのが普通なので、20分の間で伝えられるキーメッセージは7〜10個しかない。こうした制約を念頭においた上で、プレゼン全体のストーリーを構築する必要がある。20分しかないのに、20枚も30枚もスライドを詰め込んでプレゼンしようとするのはあまりに無謀すぎる。プレゼンターは頑張って作った資料を全部見せたいかもしれないが、聞き手にとってはそんな願望は無意味である。

 私自身、時間を考えずにプレゼンをして手痛い思いをしたことがある。中小企業診断士の実務補習(中小企業診断士の試験合格後に行われる研修で、実際に企業診断を行う)のことだが、最終日に診断結果をクライアントの社長にプレゼンすることになった。報告書はおおよそ100ページ。これをチーム6人で分担してプレゼンする。持ち時間は全体で2時間だったので、1人あたり20分の計算だ。

 ところが、トップバッターの私が長々とプレゼンをして50分も使ってしまった。後ろのメンバーはあたふた、社長も苦笑い…完全に準備ミスであった。研修だったから大事には至らなかった(いや、本当は良くない…)ものの、これが実際のコンサルティングだったら大変なことになっていたかもしれない。そもそも100ページの報告書をそのままプレゼンに持っていったのが間違いで、プレゼン用に内容を要約し、キーメッセージを絞ったものを別に用意するべきだったのだ(本当は作ることを予定していたが、プレゼン本番までの時間が足りず、作成を断念したことが裏目に出た)。

聞き手が知りたいことは何か?
 聞き手は「お客様」である。ならば、お客様のニーズに応えることが重要になる。ところが、プレゼンになるとお客様視点が欠けて、ついつい自分がしゃべりたいことをしゃべってしまう。プレゼンテーションは「プレゼントをあげること」でもある。相手がほしくないプレゼントをあげてもしょうがない。

 自分が主張したいことを伝えるのももちろん大事だが、それは聞き手が知りたいことにちゃんと応えた上での話である。聞き手が知りたいことは、聞き手の立場や経験、価値観や思考プロセス、知識レベルに左右される。よって、プレゼンターは聞き手がどういう人なのか、事前に十分な分析を行うことが欠かせない。

 例えば、あるソリューションの導入に関してその金額的な効果を知りたいと思う聞き手もいれば、ソリューションの導入プロセス・導入体制を知りたいと思う聞き手もいる。あるいは、緻密に選択肢を検討して解決策を導き出すことを重んじる聞き手もいれば、ゼロベースで創造的な解決策を導き出すことを好む聞き手もいる。こうした聞き手のニーズに合わせたプレゼンを設計することが、聞き手の満足感を高めるのに効果的だ。

 元京セラの方から聞いた話を一つ。各事業部長が役員会議で、新製品開発プロジェクトやSCM(サプライチェーンマネジメント)プロジェクトといった重要な社内プロジェクトの立ち上げについてプレゼンを行うことになっていた。

 「本プロジェクトはかくかくしかじかの目的で…」それぞれの事業部長に与えられた時間はきわめて短い。限られたわずかな時間の中で、事業部長は熱弁を振るう。

 すると、稲盛会長が必ず一言こうおっしゃるそうだ。

 「それはなんぼ儲かりますの?」

 事業部長が回答を始める。「このプロジェクトにより、生産リードタイムが従来の○○日から△△日に短縮され…」

 話が長くなりそうだと感じると、稲盛会長はすかさずこう切り込んでくる。

 「で、それはなんぼ儲かりますの?」

 稲盛会長の関心事は、プロジェクトの中身ではなく利益にあるのだ。

プレゼン終了後にどんなアクションを取ってほしいのか?
 当たり前のことだが、プレゼンとは提案である。「聞き手に何かしてほしい」と思うからプレゼン=提案するのである。そして、提案を聞いた相手からは、何らかの反応を引き出す必要がある。ところが、この「相手から引き出すべき反応」の中身が決まっていないままプレゼンに突入してしまうケースがある。

 そのプレゼンが終わった後、相手にどんなアクションを取ってほしいのか?単に自分の話の内容を理解してほしいのか、提案に対する意見をもらいたいのか、あるいは実行に対するGOサインがほしいのか、実行のための予算をつけてほしいのか、実行に対する支援がほしいのか、また営業の場合であれば契約条件に合意してほしいのか、契約書にサインをしてほしいのか…これはプレゼンの目的そのものに他ならない。目的が違えば、プレゼンのスタンスやメッセージが異なってくる。

 私が最近やってしまった、致命的ではないが防ぐことができたと思うミスの1つにこの「目的設定のミス」がある。あるクライアントで営業改革の施策を作っていて、大枠が決まったところで現場の営業の方の意見を伺うことになった。その時、私は現場に対して「営業改革の施策の説明会を実施する」という案内を出していた。

 施策に関するプレゼンが終了した後、いざ現場の意見を聞こうとしたが、出席者からの意見がほとんど出てこない。納得してくれたのかどうかいまいち不安なまま会議を終了したところ、数日経ってから意見がわっと寄せられた。

 思い返してみれば、私が「説明会」を実施すると案内してしまったのが間違いだった。出席者には、「説明会なのだからとりあえず話を聞いていればいいのだろう」と思わせてしまったのかもしれない。説明会ではなく、討議の場であることを明確に伝えた上で、現場の意見が重要になる論点を事前にちゃんと整理しておくべきだったのだ。

 この3つの問いに答えられるように準備しておくだけで、プレゼンの質はぐんと上がると思う。
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