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May 29, 2007

東京都の世帯実態調査に対する毎日新聞の解釈に少し突っ込んでみる

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 気づいたら1年ぶりに投稿する記事だった!(大汗)

情報を鵜呑みにせずに、ちょっと思考を挟んでみる
 コンサルティング業務に携わる人に限らず、ビジネスマンであれば、日々さまざまな新聞記事やビジネス雑誌の特集、各種統計資料に目を通している。それらの情報は、大手マスコミが書いているから、有名な人が書いているから、公的な機関の資料だからきっと正しい、と信じたくなるものだが、その気持ちをぐっと堪えて、ちょっと疑いの目で読んでみよう。

 例えば次のような記事。
「東京都が5年ごとに実施する『福祉保健基礎調査』で、年収が500万円未満の世帯が昨年度、初めて5割を超え、81年度の調査開始以来、過去最多となったことが分かった。300万円未満の世帯も全体の3割近くで前回調査より約10ポイント増加していた。雇用機会や賃金で地方より恵まれている首都・東京でも低所得層の増加が顕著になっている実態が浮かんだ。

 調査は昨年11〜12月、無作為に選んだ都内の計6000世帯を対象に実施、3775世帯から回答を得た(回答率63%)。

 それによると、年収500万円未満の世帯は51%で、前回調査(01年)より13ポイント増えた。また、300万円未満の世帯も27%に達し、前回より9.3ポイント増加。2000万円以上は1.6%で前回より1.7ポイント減少、1000万円以上2000万円未満は11.5%で3.2ポイント減るなど、高所得者層は減少傾向だった。

 また、収入源については、28%の世帯が『年金や生活保護』を挙げ、『仕事をしている人がいない』世帯も過去最高の22%に達するなど、厳しい生活実態が垣間見える。」
(2007年5月16日 毎日新聞 ※毎日新聞そのものを批判するつもりは毛頭ありません・・・)

低所得層が増えたのは何故だろう?
 大都市・東京でも、雇用機会や賃金に恵まれず、厳しい生活を送っている人が増えているとでも言いたげな記事である。おそらく「カクサシャカイ」とか「ショトクノニキョクカ」とか、その辺のことを意識した論調にしたかったのだろうが、んー、よく考えてみよう。本当にそこまで言えるだろうか?

 記事の基になった「福祉保健基礎調査」の中身を見てみよう。(http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kikaku/news/presskikaku070412.html)。65歳以上の高齢者のみの世帯の割合が、前回調査の16.6%から21.7%と、5.1%増えている。高齢者の収入源はもっぱら年金。もちろん、定年後再就職する人や、定年後に起業する人も最近は話題になっており、年金以外にそれなりの収入を得ている高齢者もいるかもしれない。しかし、わずか数年でそういった高齢者が爆発的に増えたとは考えにくい。やはり、高齢者の圧倒的大多数は年金暮らしであろう。

 年金の受給額はどのくらいなのだろうか。社会保険庁によると、20年以上厚生年金に加入していた人の平均的な厚生年金受給額は、基礎年金も含めて月16万9000円(さすがにここは社保庁も大きく外していないはずだ)。仮に夫婦がともに厚生年金を受給していれば、年間約400万円の計算になる。しかし、女性の厚生年金加入期間は男性よりも短いのが一般的だし、専業主婦であれば国民年金しか受給できないため、年間の総受給額は実際にはもっと少ないと予想される。また、国民年金しか受給していない世帯であれば、総受給額はぐっと少なくなる。

 このように考えてみると、仮に年金以外の収入があったとしても、高齢者のみの世帯の年間総収入が500万円を超える可能性は低い。よって、年収500万円未満の世帯の割合の増分13%のうち、半分弱は高齢者のみの世帯の増加によって説明ができることになる。高齢者のみの世帯ではないが、主たる収入源が年金である世帯(夫65歳、妻63歳、子供は独立、夫婦は仕事せず、みたいな世帯)も考慮すれば、説明の度合いはさらに高まる。つまり、この調査から、低所得者層の増加は雇用機会や賃金に恵まれない人が増えたためとまで言うのは無理があるのではないだろうか。

 引用記事の最後に書かれている「『仕事をしている人がいない』世帯も過去最高の22%」も、高齢者のみ世帯の増加を考えれば至極当然のことであり、そこだけ見ても何ら有効な示唆は得られない。

「福祉保健基礎調査」そのものの信憑性にも疑いあり?
 こんな記事を書いてしまった毎日新聞は勇み足だったと思うのだが、そもそも東京都福祉保険局が実施した「福祉保健基礎調査」自体が、東京都民の実態を反映していない可能性が高い。一番の問題点は、この調査が訪問面接で行われていることだ。つまり、住民基本台帳から無作為に抽出した6,000世帯に対して(ここまでは問題ない)、調査員が直接訪問し、インタビュー形式で調査を実施しているのである。

 今どき訪問面接で適切なサンプリングができるとは到底思えない。調査員が対象世帯を回るのは日中であろうが、平日ならば働いている人は家にいないし、休日でも家族がどこかに出かけてしまっていればどうしようもない。おまけに、たとえ家に誰かがいたとしても、回答を拒否されてしまえば一巻の終わりである(国勢調査で居留守や回答拒否に悩む調査員が続出した件は記憶に新しい)。実際、この調査で回答が得られた世帯の構成員9,171人の性・年齢階級と、東京都の人口ピラミッドには結構な違いが見られる。前者の方が高齢者の割合が高いのは、日中に自宅にいる確率が、仕事のない高齢者の方が若年層より高いことと無関係ではないだろう。

福祉保健基礎調査の回答世帯員の性・年齢階級
福祉保健基礎調査の回答世帯員の性・年齢階級


東京都の人口ピラミッド(東京都HPより)
東京都の人口ピラミッド

結論
 どんなに権威ある人や機関の記事や資料であるといっても、書いているのは所詮人間であるから間違えることもあるし、場合によっては結論ありきで文章を書いて、数字については後からうまくつじつまを合わせたり、何食わぬそぶりではぐらかしたりしているということもある。頭の体操がてら、こうした文章や数字をちょっと疑いながら読んでみると面白いかもしれない(あまり疑いすぎるのも考え物だが…)。
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