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February 14, 2006

製造業が海外生産をする理由

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 製造業は製造コストを削減して価格競争力を高めるために、中国やインドネシア、ベトナムなどの低賃金国の労働力を活用しているという話がしばしばされていますが、これは必ずしも正しいとは言えません。なぜならば、製造原価に占める人件費(直接労務費と間接労務費の和)の割合は、平均で10%前後に過ぎないからです(製造業内の各産業でもそれほどばらつきはない)。製品価格に占める割合に換算すれば、さらにその比率は小さくなります。つまり、国内の労働者を使おうと、海外の労働者を使おうと、製品価格に大きな差が出ないことになります。

 国内の製造業が海外生産を行う理由は、大きく分けて次の3つです。

 第一に、現地で原材料を安く調達することで製造原価を削減し、価格競争力を高めるためです。製造原価の大半を占めているのは原料費です。原材料を安く調達することができれば、大幅に価格を下げることも可能になります。もっとも、現在ではグローバルに原材料を調達することも可能なので、海外に生産拠点を設けるまでもないのかもしれません。とはいえやはり、原材料との距離は縮めておいた方が何かと便利です。

 第二に、製品を現地市場で販売する場合に、市場との距離を近く保つためです。市場での需要量の変化をいち早く生産計画に反映させる、顧客のニーズの変化をいち早く製品企画や設計に反映させる、こうした迅速かつ柔軟な対応をするためには、市場と製造工場との距離を近くしておく方が有利です。

 第三に、国内の従業員の高学歴化があります。今や新卒入社の約半数が大卒です。残りのほとんどが高卒あるいは専門学校卒です。彼らは入社までに多額の教育投資を受けています。経営者は、高額の投資を受けた若者を、数ヶ月の教育訓練で技術を習得できる程度の肉体労働に就かせることに対しては消極的です。若者もそれを望んでいません。若者は、技術者、設計士、機械技師、品質管理スタッフといった工場の専門職として働いたり、製品企画、マーケティングといった専門部門のスタッフとして働いたりすることを望んでいます。

 他方、低賃金国には、十分な教育を受けていない低所得層の人が多数存在します。しかし、彼らに十分な職業訓練を施せば、本国の工場と遜色ない生産性を上げることが可能になります。しかも彼らの人件費は本国よりも安く抑えられます(ただし、これが価格面での競争優位になるわけではない)。安いといっても、彼らが現地で生活するには十分な給与です。

 他にも貿易摩擦に対する政治的配慮といった理由もありますが、国内の製造業が海外生産を進めるのは主にこうした理由からです。


(※補足)ただし、ここまでの話はあくまで製造業に限った話です。情報システム開発やソフトウェア開発のように、製品に対する人件費の割合が高い場合は話が別です。こうした分野では、低賃金国は脅威となります。情報システムやソフトウェア開発には専門的な知識が要求されるため、従来の先進国・途上国の理論で考えれば途上国が手をつけることは考えられませんでした。しかし、インドは通説を覆してソフトウェア開発に注力し、低賃金で高品質のプログラムを提供できるようになりました。

《追記》2011年9月15日
 中小製造業に限定されるが、売上高に占める労務費(直接労務費+間接労務費)の割合を資本金別に見ると次のようになり、資本金が大きくなるほど労務費の割合が低くなる傾向が見て取れる(※1)。なお、中小製造業の定義は、中小企業基本法第2条により、「従業員数300人以下、または資本金3億円以下」とされている。
 ・1,000万円以下        :18.4%
 ・1,000万円超〜3,000万円 :17.8%
 ・3,000万円超〜5,000万円 :15.4%
 ・5,000万円超〜1億円    :15.5%
 ・1億円超〜3億円       :14.0%
 ・3億円超〜           :11.9%
 ・全体               :16.2%

 同様に、売上高に占める材料費の割合も資本金別に計算してみた(※1)。労務費とは逆に、資本金が大きくなるにつれて、材料費の割合が高くなっている。
 ・1,000万円以下        :37.9%
 ・1,000万円超〜3,000万円 :40.2%
 ・3,000万円超〜5,000万円 :40.2%
 ・5,000万円超〜1億円    :43.6%
 ・1億円超〜3億円        :46.2%
 ・3億円超〜            :43.4%
 ・全体                :41.2%

 なお、「既に人件費が低い海外に進出しているから、労務費の割合が低くなっているのではないか?」という反論に備えて、海外進出の有無についてもデータを調べてみた。中小製造業のうち、「海外に子会社、関連会社または事業所がある企業の割合」を資本金別に見ると、以下のようになる(※2)。
 ・1,000万円以下        :0.7%
 ・1,000万円超〜3,000万円 :5.7%
 ・3,000万円超〜5,000万円 :7.0%
 ・5,000万円超〜1億円    :15.8%
 ・1億円超〜3億円       :20.4%
 ・3億円超〜           :35.5%
 ・全体               :2.7%

 海外に子会社、関連会社あるいは事業所が1つでもあれば、「海外進出している企業」としてカウントされることから、「本格的に海外展開を行っている企業」は、上記の数値よりも低いと推測される。さらに、海外進出しているといっても、それが製造拠点であるとは限らず、現地市場向けに販社を設立しているなどのケースも想定されるので、その点も考慮してデータの意味を解釈する必要がある。

(※1)「中小企業実態基本調査 平成22年確報(平成21年度決算実績)」(中小企業庁、2011年7月29日公表)の「統計表 3.売上高及び営業費用 (3)産業別・資本金階級別表(法人企業)」より算出。
(※2)「中小企業実態基本調査 平成22年確報(平成21年度決算実績)」(中小企業庁、2011年7月29日公表)の「統計表 2.海外展開の状況 (3)産業別・資本金階級別表(法人企業)」より算出。

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コメント

興味深く読ませて頂きました。今後、益々円安が進んだとしても、工場の国内回帰はないという事でしょうか?また、日本が物作りの国として復活するにはどうすれば良いのでしょうか??それとも日本はこのまま衰退していくのでしょうか???
>いまむらひできさん
古い記事を読んでいただき、ありがとうございます。
短期的に見れば、円安が進んでも国内回帰はないと思います。
というのも、工場で働く人材の育成には時間がかかるので、
簡単に工場を移転できるわけではないからです。
ただし、かなり長いスパンで見れば、アメリカの国力が相対的に落ちて
ドルの価値が下がり円高になると予想されます。
また、その頃には日本の人口が減って地方では土地が余るため、
工場の国内回帰が進むかもしれません。

日本のものづくりですが、
自動車や家電で世界を席巻したような派手さはなくなるでしょう。
代わりに、医療機器、工作機械、ロボット、建設、航空、造船、軍備など、
”目立たないけれど高い精度が求められる分野”でしぶとく生き残ると考えます。

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